ベトナム・ハノイ支部の小瀬です。
本日のニュースレターでは、ベトナムM&Aにおいて契約締結(SPA)後に直面する最大のハードルの一つ、「競争法に基づく企業結合届出」について解説いたします。
現行の規制(政令 Decree 35/2020/ND-CP等)に基づき、特に日本企業が見落としがちな「届出基準」と、違反時の「重いペナルティ」について要点をまとめました。
1. 企業結合届出(Merger Filing)とは
M&Aによって市場の独占が進み、健全な競争が阻害されることを防ぐための制度です。SPA締結後、クロージングに向けた最初の行政手続きとなります。 当事者のいずれかが下記の基準に該当する場合、ベトナム競争委員会(VCC)への事前届出が義務となります。
2. 届出が必要となる基準(閾値)
以下のいずれか一つでも超過する場合、届出が必要です。大規模な案件だけでなく、一定規模以上の事業者が関与する場合は注意が必要です。
- 総資産または総売上高:ベトナム市場において一定額(例:3兆ドン)を超える場合
- 取引価値(Transaction Value):買収額が一定額(例:1兆ドン)を超える場合(※オンショア取引)
- 市場シェア:結合後の市場シェアが20%以上となる場合
3. 審査期間とスケジュールの見積もり
届出後の審査プロセスは以下の2段階で進行します。
- 予備審査(Preliminary Review):法定期間30日
- 多くの案件はこの段階で「懸念なし」としてクリアランスが得られます。
- 本審査(Official Review):追加で90日(延長あり)
- 市場シェアが高い場合や、特定の集中産業においては本審査へ移行する可能性があります。
M&Aのスケジュール策定においては、最低でも予備審査の30日、場合によっては数ヶ月単位の期間を織り込んでおく必要があります。
4. 最大のリスク:「ガン・ジャンピング(Gun Jumping)」
実務上、最も厳守すべきは「クリアランス取得前の実行禁止」です。
当局の承認を得る前に、株式の譲渡を実行したり、人事権の行使など経営への介入を行うことは「ガン・ジャンピング」と呼ばれ、厳禁とされています。違反した場合、以下の深刻なペナルティが科される可能性があります。
- 高額な罰金(前年度売上の最大5%等)
- M&A取引自体の無効化
ベトナムでのM&Aをご検討の際は、これらの競争法リスクを初期段階から考慮し、戦略的なスケジュールを組むことが不可欠です。
※本ニュースレターは一般的な情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の案件については別途ご相談ください。