ミャンマーで最も頻繫に計算が必要になるコンプライアンスの一つが、給与計算です。
個人所得税はすべての企業に毎月計算して控除(いわゆる「源泉徴収」)、翌月15日までに納税する義務があり、同様に社会保険料も会社、従業員のそれぞれから拠出して納付する義務があります。
しかし、監査を担当して計算を見ていくと、多くの企業で法定の計算ができておらず、税務署からも修正を依頼されることになるケースが散見されます。
今回は、ミャンマーの企業が行う給与計算の実務において、誤りやすいポイントを中心に、論点を整理してお伝えします。
1.コンプライアンススケジュール
ミャンマーの労務法制上、従業員の給与は最低毎月1回は支給される必要があるものとされています。
企業は給与の支給頻度を日次、週次、2週に一度、月次のいずれかと設定し、それぞれの期間の最終日までに該当期間の給与を支給することが義務付けられます。
例外は、従業員数が100名を超える企業の場合で、給与対象期間の終わりから5日以内の支給が義務付けられます。
最終日の支給というスケジュールは給与計算としては厳しい規則であり、実務上は給与計算期間を定めて残業時間数、無給時間数などの起点とし、残りの期間は翌月の計算に繰り越す形で計算したもので、計算期間最終日までの支給が行われます。
その後、最低でも毎月1度、給与対象期間の終わりから15日以内に個人所得税、および社会保険料の納付が求められます。
実際には、給与対象期間が月の何日目かによらず、翌月15日までに納付することが求められ、遅延すればペナルティーのリスクが発生するため、給与計算期間は月初から月末までと解釈するほうが安全です。
2.給与の算定方法
ミャンマーの企業は、原則週に44時間まで、1日8時間までの勤務をさせることができます。なお、この8時間は実働であり、休憩時間は除外されます。
実務上、労使間での合意があれば、2週間単位ないし月間で見て、平均週に44時間と解釈する(1日8時間勤務の場合、2週間で11日、88時間とするなど)ことも行われています。
どの企業も従業員単位で営業日と休業日を設定しますが、給与計算は営業日の日数ではなく、カレンダーの日数で行われます。
具体的には例えば、営業日が24日、休業日が6日ある月に2日無給休暇があったような場合、控除される給与額は、月額基本給の「2÷26」倍ではなく、「2÷30」倍となります。
3.残業代の計算方法
残業は、一日の就業時間数が8時間を超えたところから発生します。
この点、例えば半日休暇を有給で使用したような場合でも、その時間は就労していない計算になるため、午前休を使用して午後から出勤し、6時間働いたというような場合でも、残業代を支給する義務は発生しません。
残業代は、法律に従えば、残業が認定される時間数を分単位で計算して時給単価を60で割った数字の倍を支給することになります。
ただし、こうした数字の扱いや残業の認定自体は、雇用契約書や企業のルールによる管理される部分が大きく、実務上は法律に従った形にならないケースも散見されます。
4.社会保険料の算出方法
ミャンマーの社会保険料は、通称SSB(社会保険庁Social Security Boardの略称)と呼ばれ、従業員数が5人以上となる企業には、毎月の給与から以下のように計算し、翌月15日までに納付することが義務付けられます。
・雇用者側:対象給与額の3%、ただしMMK9,000を上限とする
・従業員側:対象給与額の2%、ただしMMK6,000を上限とする
(※月額対象給与額がMMK300,000を超えれば一定額となると理解できます)
ここで、誤りやすいのは対象給与額の範囲です。
社会保険法(Social Security Law, 2012)はその第2条(j)で、給与(Wage)の定義として、「(給与は)残業代を含む。ただし、出張手当、年次賞与、功労特別賞与、その他労働省が特に給与と無関係と定めた報酬額を除く」と定めており、実務上は勤務時間数により算出される基本給、および残業代のみが対象になると解釈できます。
この点、個人所得税の課税対象と乖離する部分が出てくるため、注意が必要です。
なお、2023年4月以降、遅延に対しては納付額の10%のペナルティーが科せられるようになっており、期限に送れないよう納付することが推奨されます。
5.個人所得税の対象と計算
ミャンマーの個人所得税は累進課税であり、税率は以下のように設定されています:
年間の課税対象所得:MMK2,000,000まで:0%
MMK2,000,001からMMK10,000,000まで:5%
MMK10,000,001からMMK30,000,000まで:10%
MMK30,000,001からMMK50,000,000まで:15%
MMK50,000,001からMMK70,000,000まで:20%
MMK70,000,001以上:25%
外国人については、出張での勤務等の場合、居住地の国でも課税される可能性が高いですが、ミャンマーで一日でも勤務すれば、課税対象所得が発生したものと理解されます。
ただし、上記税率の表の税率(年間の課税対象所得額MMK2,000,001以上が5%の課税)とは関係なく、連邦税法(Union Tax Law)で年間課税所得がMMK4,800,000未満の場合は納税の義務はないと定められています。
誤りやすいのは課税対象所得です。
・まず、給与所得はその支給が国内であれ国外であれ、全世界所得として課税対象となります。
・次に、ミャンマーで特定の年度中の滞在日数が183日以上となる場合、税務上の居住者と認定されれば、国外での活動も出張としてミャンマー国内での勤務と同一視され、すべての期間の所得につき課税対象となります。
・他国で義務付けられる社会保険料の会社支給額などは除外して考えることができますが、ミャンマーでの税額を企業が負担した場合はその負担額全額が課税所得と見なされ、Tax-on-Tax計算(いわゆるグロスアップ計算)が必要になります。
・現物出資として支給される便益については、現金で本人に支給されるものがすべて課税対象となり、会社側が直接支払ったものだけが除外されます。
・税務上の居住者(上述、年度中183日以上のミャンマー滞在を条件とする)となる場合には、基礎控除(給与額の20%、MMK10,000,000まで)、家族控除(配偶者、父母、子女に所得がない場合)、生命保険料控除(上記のSSBこと社会保険料個人負担額を含む)が適用になりますが、この金額を除いた金額が課税対象所得となります。
また、外貨での給与支給を受ける者は、その税額をMMKに換算して算入する必要がありますが、その計算には中央銀行の月末レートを使用することが推奨されます。