ベトナムでの駐在員事務所の運営に於いて必要なコンプライアンスに関して下記の順で解説いたします。
⓪駐在員事務所とは
①会計
②税務
③法務
④労務
⓪駐在員事務所とは
まずは駐在員事務所とはどのようなものかを解説します。
駐在員事務所は現地での市場調査や情報収集活動を目的として設置される事務所です。
法人格は持たないため、原則として営業活動が認められておりません。
日本企業で駐在員事務所を開設する目的は下記のようなケースが多いです。
・ベトナム進出を検討している企業の法人設立の下準備
・本社事業の商業促進活動
また、外国企業の駐在員事務所か現地法人の駐在員事務所かで管轄当局機関が異なり、参照法令も異なりますので注意が必要です。
本レポートでは数の多い外国企業の駐在員事務所に関して解説します。
①会計
駐在員事務所の場合、会計におけるコンプライアンスはほとんど無いと言えます。
参考までに現地法人の場合は下記の義務が発生します。
・決算報告書の作成
・年次法定監査(外資の場合)
・チーフアカウンタントの雇用
・VATインボイスの発行
駐在員事務所は上記を行う必要がありません。
逆に言えば、営業活動は禁止されているため売り上げを立ててVATインボイスを発行するようなことがあれば問題となります。
ただし注意点として、義務ではないものの多くの駐在員事務所が決算書を作成しているという点です。
資金管理の観点から決算書を作成するのが好ましいかと思います。
②税務
駐在員事務所は税務上下記のみ申告納税が求められます。
・個人所得税
法人で求められる法人所得税、付加価値税、事業登録税の申告は不要です。
法人と比較して税負担が少ないのは駐在員事務所を選択するメリットと言えます。
しかし個人所得税に関しては注意が必要です。
税金が個人所得税のみであるため、税務当局より厳しく確認が行われる傾向にあります。主な注意点としては下記です。
・ベトナム居住者(ベトナムに年183日以上滞在)の場合、全世界所得を対象にベトナムでの申告納税を求められる
・代表者がベトナム非居住者の場合でも申告納税を求められる可能性が高い。その場合はベトナム側所得に対して一律20%が課税される
・出張者に対しても原則申告納税が求められる
・代表者変更の際に必ず代表者の過去分を調査される
稀にベトナム居住者にも関わらず日本側の所得を一切申告していないというケースや、
代表者が日本居住者で個人所得税をベトナムで一切申告していなかったというケースを見かけます。
税務調査等で指摘を受けた場合、追徴課税に加え罰則金、延滞利息の支払いを求められます。
かなりの大きな額となることもありますので、個人所得税に関しては保守的に申告納税を行うことを推奨いたします。
③法務
法務面における主な留意点は下記です。
・代表者はベトナムに常駐する必要がある。そうでない場合は他の居住者へ委任を行う
・法人や支店の法定代表者との兼務は不可
・契約締結は不可
・駐在員事務所のライセンス延長は期限の30日前までに申請を行う必要がある
・代表者変更は変更日より60日以内に商工局への申請を行う必要がある
・活動報告書の提出
営業活動が禁止されているため、契約締結ができない点や代表者の常駐義務、代表兼務の禁止などに注意が必要です。
また、駐在員事務所のライセンスは原則5年となっています。活動を継続する場合、ライセンスの延長申請を行う必要があります。上記の通り期限の30日前までに申請を行う必要があります。申請には日本で書類の公証認証が求められるものがありますので、余裕を持って準備を始めることを推奨いたします。
④労務
労務面における主な留意点は下記です。労務においては法人と大きな違いは無いと言えます。
・労働契約書の締結
・就業規則の作成、登録
・社会保険の加入及び保険料の納付
・労働組合費の納付
・雇用、労働に関する各報告書の提出
就業規則は作成及び社内公布義務があります。従業員が10名を超えると当局への登録義務が発生します。駐在員事務所においては従業員が10名を超えるケースは少ないため、就業規則を作成していない会社も稀に見受けられます。しかし、労務トラブルを避けるために作成しておくことを推奨いたします。
労働組合費に関して、労働者5名以上の希望があれば労働組合を設立可能です。注意点として、労働組合を設立していない場合でも、雇用者負担額に関しては納付が義務付けられている点です。雇用者負担額は2%とされています。
以上でございます。
駐在員事務所は営業活動が禁止であるためコンプライアス面を軽視しがちですが、全く気にしておらずに閉鎖時に多額の罰則金が発生するケースもありますので、運営時からしっかりと管理することを推奨いたします。
管理面において不安があれば是非一度ご相談ください。