概要
インド準備銀行(RBI)は2025年、外国企業がインド国内に支店や事務所を設立する際の枠組みを定める新たな規則案「Draft Foreign Exchange Management (Establishment in India of a Branch or Office) Regulations, 2025」(以下、ドラフト規則案)を公表しました。本規則案は、2016年の現行制度を全面的に見直すものであり、手続きの簡素化と透明性の向上、そして外国投資の促進を目的としています。これにより、インド市場に参入する海外企業の利便性を高め、経済活動の一層の活性化を図ることを狙いとしています。
1. 変更の目的
今回の見直しは、次の四つの目的を中心に設計されています。
① 規制の簡素化と自由度の拡大:複雑な要件を整理し、外国企業がより迅速かつ容易にインドで事業を展開できる環境を整備することです。
② 権限の分散と処理の迅速化:従来、RBIが担っていた許認可の一部を認可銀行(Authorized Dealer)へ移譲し、承認プロセスを短縮することです。
③ 非活動拠点の整理:活動報告を怠る事業所の閉鎖を促すことで、透明性を確保し、非効率な拠点を削減することです。
④ 他法制度との整合性確保:SEZ法や寄付金規制法(FCRA)など、他の関連制度との整合を図ることです。
2. 主な変更ポイント
ドラフト規則案では、従来の「支店(BO)・連絡事務所(LO)・プロジェクトオフィス(PO)」という区分を統合し、「Branch」と「Office(支店以外の拠点)」の二分類に簡素化しています。これにより制度理解が容易になり、運用も柔軟になります。
また、財務要件や純資産基準などの数値的条件が撤廃され、AD銀行が原則ベースで判断できる仕組みへ変更されました。これにより、新興企業や小規模事業者の参入が促進される見込みです。
さらに、従来はRBIの承認が必要だった多くの手続きが「一般許可ルート」として銀行レベルで完結できるようになり、設立から稼働までの期間が短縮されます。
その他にも、年次活動報告書(AAC)の提出を義務付け、3年間報告を怠ると閉鎖対象となる規定を新設したほか、拠点識別番号(UIN)の導入により管理の一元化が進められています。
3. 変更の意義と留意点
本改正案の意義は、外国企業にとっての事業設立コストの削減と、当局側の監督効率の向上にあります。特に、AD銀行への権限委譲によって現場での判断が迅速化し、RBIの集中管理体制から分散的な管理体制へと移行することが期待されます。
一方で、原則ベースの運用は解釈の幅が広いため、銀行ごとの判断に差が生じる懸念もあります。また、報告未提出による閉鎖リスクや、特定国からの参入に課される追加義務(警察登録・内務省報告など)は、実務上の負担となる可能性があります。
したがって、制度の実施後はRBIやAD銀行による明確なガイドラインの提示が重要であり、他法制度との整合性を確保する取り組みが求められます。
4. 結論
2025年のドラフト規則案は、インドの外国為替管理制度における大きな転換点であり、外国企業にとってより開かれた投資環境を実現する可能性を持っています。一方で、運用上の明確化と実務ガイドラインの整備が成否を左右するといえます。今後は、利便性と統制のバランスをどのように取るかが重要な課題となります。
本日は以上になります。
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