メキシコではいま、働き方そのものを見直す大きな転換期を迎えています。注目なのは、憲法第123条を土台とした労働時間短縮の動きです。憲法第123条は、8時間労働や最低賃金、労働組合の結成権、ストライキ権、利益分配(PTU)など、労働者の基本的な権利を幅広く定めており、メキシコの労働制度の柱となっています。
こうした枠組みの中で、現在は週48時間の法定労働時間を、2030年に向けて週40時間まで段階的に短縮する改革が進められています。シェーンバウム大統領はこの方針を公表しており、労働時間の見直しは重要なテーマとなっています。2025年5月1日のメーデーには、この改革に向けた対話の開始と基本方針が示され、象徴的なタイミングで議論が始まりました。
その後、制度化に向けた手続きが進み、現在は段階的な導入に向けた移行期間に入っています。具体的には、2026年は準備期間として現行の48時間を維持しつつ、2027年に46時間、2028年に44時間、2029年に42時間、そして2030年には40時間へと少しずつ短縮されていく予定です。
もっとも、この動きは単発の改革ではありません。ここ数年、メキシコでは労働者保護を強化する制度改正が続いてきました。2020年には年金制度改革により雇用主負担の引き上げが決まり(実際の負担増は段階的に進行中)、2021年には人材供給型の外部委託が原則として禁止され、2022年には有給休暇が大幅に増加しました。いずれも労働者にとっては大きな前進である一方、企業にとっては人件費の増加という形で影響が出ています。今回の労働時間短縮も、同じ流れの中にあるといえるでしょう。
また、現在の制度でも労働時間の管理は比較的厳格です。連邦労働法では、残業は例外的に認められるものとされており、1日3時間、週3回、つまり週9時間が上限とされています。残業自体は禁止されているわけではありませんが、あくまで一時的・例外的な対応という位置づけです。
さらに、その対価も高く設定されています。週9時間以内の残業については通常の2倍の賃金、これを超える場合は3倍の賃金を支払う必要があります。この仕組みは、企業に対して「安易に残業に頼らないようにする」強いメッセージでもあります。実務上も、給与計算では残業を種類ごとに分けて管理・支給するのが一般的で、税務対応の面でも重要なポイントとなっています。
こうした環境のもとでは、単に労働時間を延ばして対応する従来型の経営は成り立ちにくくなっています。特に今後は法定労働時間そのものが短くなっていくため、企業にはより効率的で持続可能な運営が求められます。残業に頼る働き方は、コスト面だけでなく、法務や労務のリスクという意味でも限界があります。
これからは、業務の進め方そのものを見直し、デジタル化の活用や人員配置の最適化などを通じて、無理のない形で成果を出せる体制をつくることが重要になってくるでしょう。労働時間の短縮は単なる制約ではなく、企業にとっては生産性を見直すきっかけともいえます。
今後もメキシコの労働制度は、労働者保護の方向で変化していくと考えられます。その中で企業が競争力を保っていくためには、制度に対応するだけでなく、働き方そのものを見直していくことがますます重要になっていくでしょう。