はじめに
2025年9月3日・4日に開催された第56回GST評議会において、制度開始以来最大規模の改正が承認されました。今回の「GST 2.0」改革は、税率構造の合理化、還付制度の迅速化、登録・申告の簡素化、紛争解決制度の整備を骨子としています。
在インド子会社を有する企業にとっては、これらの改正が販売価格、契約条件、ERP・会計システム、キャッシュフローおよび税務コンプライアンス体制にまで波及します。本号では、決定内容と実務対応上のポイントを整理いたします。
GST評議会とは
インドの物品・サービス税(GST)は、連邦政府と州政府が共同で設置する「GST評議会(GST Council)」によって決定されます。税率や品目分類、免税措置、制度運用の見直しなど、GSTに関する主要な方針はすべてこの評議会で審議・決定されます。評議会は原則として3か月に1度の頻度で開催されることが想定されており、実際にも年に2〜4回程度開かれています。重要な政策変更や緊急の課題がある場合には臨時に開催されることも多く、インド経済や国際情勢の動きに応じて柔軟に対応する仕組みとなっています。
税率の合理化
従来の 5%、12%、18%、28%+補填税という煩雑な体系は廃止され、新たに 5%、18%、40%の三本柱へ再編されました。
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改正前
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改正後
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主な対象例
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5%
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5%(据置)
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生活必需品など
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12%
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5%または18%
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医薬品、加工食品など
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18%
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18%(据置)
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一般消費財・サービス
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28%
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18%または40%
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自動車、耐久財、宝飾品等
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28%+補填税
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40%(統合)
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自動車、飲料、石炭等
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自動車分野では、中型・大型車が従来の「28%+補填税(最大22%)」から「40%のみ」に一本化されました。小型車・二輪車は18%へ引き下げられ、補填税は撤廃されました。加糖飲料・エナジードリンクも40%の一本課税へと移行しています。
還付制度の改革
ゼロレート取引
ゼロレート取引(Zero-Rated Supply)とは、輸出やSEZ向け供給など、課税売上に該当しながら税率0%とされる取引を指します。従来は還付処理に数か月を要し、輸出企業の資金繰りを圧迫していました。今回の改正では以下が導入されました。
- 還付申請後、リスク評価を通過した事業者は申請額の90%を7営業日以内に仮払還付(provisional refund)として受領可能になりました。残額は審査完了後に支払われます。
- ITC利用と現金支払いの双方で適用対象となります。
- 輸出取引に加え、SEZユニットへの供給も対象範囲に含まれます。
- 除外規定:Aadhaar未認証事業者やタバコ・パーンマサラ事業は対象外です。
この迅速還付により、輸出主体の在インド子会社は運転資金の効率改善が期待できます。
倒置税構造(Inverted Duty Structure, IDS)
仕入税率 > 販売税率の構造においても、今回から90%仮払還付が認められることとなりました(2025年11月1日暫定開始)。
補足:仕入18%・販売5%などの場合、差額が滞留します。この余剰分を迅速に還付するのが今回の改正です。
登録・申告手続きの簡素化
- 簡易登録スキーム:Output Tax Liability が月額250,000ルピー以下であれば、申請から3営業日以内に自動承認されます(2025年11月1日開始)。
- 年商20,000,000ルピー以下事業者:FY2024-25以降、GSTR-9/9A が免除されます(Notification No.13/2025)。
- 年商50億ルピー超の大規模事業者:GSTR-9/9Cに以下の新要件が追加されました(Third Amendment Rules, 2025)。
- Reclaimed ITC の明細記載
- Eコマース事業者に関する供給内訳の報告
- 税額不一致通知(Mismatch Notice)への対応履歴の開示
紛争解決制度の整備
Post-Sale Discount
従来は、売上後に付与される値引き(後日割引)について、契約書に事前記載がない場合GST控除が認められませんでした。今回の改正により、事前契約書への明示義務が撤廃され、実際の商慣行に即して事後値引きでもGST負担額を調整できるようになりました。
ただし、インボイス修正やデビットノート/クレジットノートの発行要件は維持されているため、会計処理上の裏付け資料は引き続き必要です。これにより、取引後の価格調整を柔軟に行えるようになり、自動車や消費財業界を中心に実務面で大きな影響が見込まれます。
供給地ルール(Place of Supply)
Intermediary services(仲介サービス)の供給地を「受領者所在地」とする変更が提案されました。これにより、クロスボーダー役務提供を行う日系サービス子会社において、課税地判定が従来と大きく変わる可能性があります。
具体例
日本本社向け仲介サポート:インド子会社が日本本社の製品販売を海外顧客に仲介する場合、従来はインド課税でしたが、変更後は日本(受領者所在地)が供給地とされ、輸出サービス(ゼロレート)扱いとなります。
この改正により、クロスボーダー仲介業務を行う日系子会社では税負担が軽減され、ゼロレート還付の適用が拡大する見込みです。一方で、契約書におけるサービス受領者の明確化が不可欠となります。
GSTAT(Goods and Services Tax Appellate Tribunal)
GST関連の紛争解決を専門に扱う新たな上級審判機関として、GSTAT(Goods and Services Tax Appellate Tribunal)が2025年末までに設立される予定です。
従来は、多くのGST訴訟が各州のHigh Courtに直接持ち込まれており、解決まで数年を要することも珍しくありませんでした。改正後は、まずGSTATに上訴することが義務付けられ、専門的な判断を迅速に得られる制度設計となります。
GSTATは、司法メンバーと中央・州税務当局から任命される技術メンバーで構成され、州ごとに複数のBenchesが設置されます。全国本部はDelhiに置かれる予定であり、電子申請(e-filing)制度も導入されます。
申立期限は原則3か月以内とされ、解決期間は従来の数年から6〜12か月程度に短縮される見込みです。在インド子会社にとっては、長期にわたり訴訟リスクを抱える状況が改善され、資金や経営リソースをより効率的に活用できる環境が整います。
本日は以上になります。
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