こんにちは、ベトナム、ハノイ支部の小瀬です。
企業や個人の活動がグローバル化する現代において、国境を越えた租税回避は、各国の税の公平性を著しく損なう問題です。この問題に対処するため、ベトナムでは2019年税務管理法が施行されました。本法の中でも、特に第12条「税務当局による国際協力」は、公平な税負担を実現するための非常に重要なルールを定めています。
税務管理法第12条に定められた税務当局の主な責務
本条において、ベトナムの税務当局は以下の責務を負うことが明確に規定されています。
- 国際条約の交渉・締結支援: ベトナムが締結する国際条約(租税条約等)に関し、交渉の提案、署名、権利義務の行使について財務大臣に助言し、国益を確保する。
- 二国間・多国間協定の実施: 外国の税務当局との間で、税に関する二国間または多国間の協定を交渉・締結し、その実施を主導する。
- 情報交換と専門的協力: 外国の税務当局や国際機関と連携し、情報交換や専門的な協力を推進する。特に関連者間取引(移転価格税制)の管理を目的として、納税者およびその国外関連者に関する情報を交換する。
- 徴税協力(徴収共助)の実施: ベトナムが締結した国際条約に基づき、以下を含む徴税支援措置を実施する。
- (a) 国外でのベトナム税の徴収要請: 納税者がベトナムから出国・撤退した場合、相手国の税務当局に対し、ベトナムの未納税金の徴収を支援するよう要請する。
- (b) 国内での外国税の徴収支援: 外国の税務当局からの要請に基づき、ベトナム国内における外国の未納税金の徴収を支援する。
最重要ポイント:国外での未納税金に対する徴収権(第12条4項a号)
上記の中でも、日系企業にとって特に重要なのが「(a) 国外でのベトナム税の徴収要請」です。これは、いわゆる「徴収共助」と呼ばれる制度であり、実務上、極めて強力な影響力を持ちます。
【具体的なシナリオ例】
- 日本のA社がベトナムで工場を運営していましたが、業績不振により工場を閉鎖し、日本へ完全撤退しました。
- その際、1,000万円相当の法人税をベトナム税務当局に未納のまま出国しました。
- ベトナム税務当局は、この税務管理法第12条および日越租税条約に基づき、日本の国税庁に対して「A社から1,000万円を徴収してください」と徴収共助を要請します。
- 要請を受けた日本の国税庁は、日本の法律に則ってA社から税金を徴収し、ベトナムに納付する手続きを行います。
これにより、企業は「撤退してしまえば、現地での未払税金は関係ない」とは考えられなくなりました。
徴収協力の前提条件:「国際条約」の存在
ただし、この強力な措置は、ベトナムが一方的にどの国に対しても行使できるわけではありません。必ず、両国間で「国際条約」、具体的には租税条約における「徴収共助」の規定が結ばれていることが前提となります。
幸いにも、日本とベトナムの間では、この徴収共助を含む租税条約が有効に締結されています。
結論として、ベトナムから撤退した後であっても、未納税金があれば日本の国税庁を通じて強制的に徴収される可能性があります。 この事実は、ベトナムで事業を行うすべての企業にとって、日々の正確な税務コンプライアンスがこれまで以上に重要であることを示唆しています。
何か質問等ございましたら、ご質問いただけますと幸いです。